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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2357号 決定 1992年8月14日

申立人(差押債権者) 甲田ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役 甲野太郎

右申立人代理人弁護士 原後山治

同 三宅弘

同 近藤卓史

同 大貫憲介

同 髙英毅

同 杉山真一

相手方 株式会社 乙野

右代表者代表取締役 乙山春夫

<ほか三名>

当庁平成三年(ケ)第二八八号土地・建物競売事件につき、申立人から売却のための保全処分命令の申立があったので、相手方らのためにそれぞれ金二〇万円の担保を立てさせた上、次のとおり決定する。

主文

相手方らは、本決定送達後五日以内に、別紙物件目録記載(四)(五)の建物から退去せよ。

理由

一  申立の内容等

本決定は、売却のための保全処分(民事執行法五五条一項)の申立を認めるものである。

(以下、別紙物件目録(一)から(三)までの土地を「本件土地」、別紙物件目録(四)(五)の建物を「本件建物」といい、両者をまとめて「本件不動産」という。)

(一)  記録によって明白な事実

申立人は、本件不動産についての抵当権者であり(平成二年四月二日付けで登記されている)、その実行としての競売を平成三年三月六日に申し立てた差押債権者である。

丙川一郎は、上記抵当権の設定登記後の平成二年一二月一三日に本件不動産の所有権を取得した者である。

上記競売事件は、平成三年三月一一日付けで競売開始決定がなされ、次のとおり二回にわたって期間入札の方法による売却実施命令がなされたが、いずれも適法な入札がなかった。

ア  (一回目)

決定年月日 平成三年一二月一三日

入札期間 平成四年二月一八日から同月二五日まで

開札期日 平成四年三月三日

最低売却価額 一括で二九億六一四〇万円

イ  (二回目)

決定年月日 平成四年三月二七日

入札期間 平成四年六月二日から同月九日まで

開札期日 平成四年六月一六日

最低売却価額 一括で一九億二四九〇万円

当裁判所はその後(平成四年七月三日)、申立人の申立に基づき、売却のための保全処分として、丙川に対し、本件建物についての工事の中止を命じ、工事の続行を禁止し、占有の移転又は占有名義の変更を禁止し、かつ執行官に対し、丙川が占有の移転又は占有名義の変更を禁止されたことを公示するよう命じた。その理由として、丙川が二回目の期間入札の実施された段階に至って、本件建物の占有を第三者に移転しようとしており、しかもその第三者が暴力団関係者となる可能性も高いと述べた。

ところが、この保全処分命令の執行(同月六日)の際、執行官は、本件建物の一階部分は相手方らが共同占有し、二階部分は相手方ら及び丙川が共同占有していると認定した。

(二)  申立の内容

申立人は、以上の事実を前提とした上、相手方らは執行妨害を目的として丙川が占有させたものであり、丙川の占有補助者に過ぎないと主張して、相手方らに対し、本件建物から五日以内に退去するよう命じる保全処分を申し立てた。

二  申立を認めた理由

当裁判所は本件申立を認めることとする。その理由は次のとおりである。

(一)  申立人の提出した資料によれば、以下の事実が一応認められる。

ア  乙山春夫(相手方丁川専門学院こと乙山春夫。相手方丙山株式会社及び株式会社乙野の代表取締役でもある。)は前記保全処分の執行の際、執行官及び申立人代理人らに対して、本件建物を丙川から使用借していると主張した。ところが、申立人代理人から使用貸借契約書を見せるよう求められるとこれを拒絶し、さらに執行官からも見せるよう求められると、何人か(丙川又はその関係者である可能性が高い。)に電話をかけ、その承諾を得た上で契約書を提示した。

契約書は、次のような極めて簡単な内容のものであった。

貸主 丙川

借主 相手方乙野

第一条 貸主が借主に対して本件建物を無償で貸し渡す。

第二条 借主は貸主からの請求があれば直ちに返還する。

日付 平成四年五月二一日

乙山は、執行官や申立代理人らに対し、契約書の写しをとることを拒否した。

なおその際乙山は、丙川から、本件建物は差押物件であり、いつ出ることになるかわからないから承知しておいてくれと言われた旨を述べた。

イ  前記執行の際、本件建物の一階は、扉に株式会社乙野及び丁川専門学院と記載され、郵便受に丙山株式会社及び(株)乙野と記載されていたが、一階内部には、相手方丁川専門学院が使用するものと思われる机・椅子があり、ポスターが貼ってあっただけで、相手方乙野及び相手方丙山が現実に使用・占有していることを窺わせるものは何もなかった。

また二階は全く使用されていない状態で、ただ二階の鍵を乙山が保管していただけである。

ウ  前記執行の当日は、本件建物の一階で、講義が行われているかのような様子であった。ところが申立人の職員らの観察によると、その後は、講義らしき行為は一切なされておらず、日中も照明がないことが多く、関係者らしき者がたまに訪れる程度である。

エ  相手方乙野及び相手方丙山の実質上のオーナーは丁原夏夫であり、丁原及び丙川は、数件の競売事件において悪質な競売妨害を行っていると疑うべき根拠のある者らとの間に密接な関係がある。

(二)  以上の事実によれば、丙川は執行妨害を目的として、差押後に相手方らを本件建物に入居させ、その占有の外形を作ったものと認められる。このような場合には、相手方らは丙川の占有補助者とみるべきであるから、売却のための保全処分の相手方となる。

(三)  そしてこのような事情のもとにおいては、本件物件を相手方らが占有すると買受人の出現が極めて困難となることは明白であり、そのために本件物件の価格が著しく減少することになる。

(裁判官 村上正敏)

<以下省略>

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